君をひたすら傷つけて
「もう、雅の中では答えが出ているでしょ。無理をせずに素直に、好きな人の所に戻った方がいいわ。きっと、高取さんも待っていると思う」

 一人でいるとお兄ちゃんのことを考えてしまう。私も長い時間の中でお兄ちゃんのことを好きになっているのに気づいた。一緒にいる時間が長すぎて、義哉の存在があって……。自分の気持ちに気付かなかった。でも、離れてみて、思いだすのはお兄ちゃんの事ばかりで、自分の中でこんなにも存在が大きくなっているとは思わなかった。

 離れてみたからこそ分かることだった。

 でも、お兄ちゃんが私のことを大事にしてくれてはいたけど、それは同情なのかもしれない。そう思うと怖い。それにいきなり妊娠したことを聞かされて驚かないわけない。

「でも、もう好きな人もいるかもしれないし。なんて言って戻ったらいいの?それに子どものことを言って、嫌な顔されたら怖い」

「ずっと雅のことを思っていた人が数か月くらいで、他の人と付き合ったりはしないと思うわ。それに、そんな話があるなら、雅に毎日メールはしてこないわ。それに、高取さんは子どもが出来たからと言って嫌な顔をするような人?そんな人を雅は好きにならないでしょ」

 まりえの言う通り、お兄ちゃんからのメールは毎日ある。でも、お兄ちゃんは妊娠していることを知らない。たった一夜のことで、妊娠する確率は低い。

「どんな顔して戻ればいいの?」

「堂々と戻ったらいいわ」

「堂々と?」

「そうよ。だって、高取さんのマンションに雅の荷物はあるし、合鍵もあるでしょ。もし、会ってみて、嫌な顔をされたら、荷物を取りにきただけって言えばいいでしょ」
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