君をひたすら傷つけて
 コンビニでもいいかなって思いながら、歩いていると、私はお兄ちゃんのマンションの近くまできてしまっていた。見上げると思ったとおりに、お兄ちゃんの部屋の電気は消えていた。

 篠崎さんは新しいドラマに主演するらしく、リズはスタイリストとして参加し、エマはその他の篠崎さんの同じ事務所の女優のスタイリングを任されていた。今日の昼に事務所を出る時に、これから忙しくなると二人とも言っていて、今日はその新しいドラマの顔合わせを兼ねての会議の後に懇親会がある。主演の篠崎海はともかく、社長、マネージャーもその懇親会に参加する。

 それを私は知っていた。
 そして、今日ならお兄ちゃんはマンションに居ない。

 私はエントランスを通り過ぎ、エレベーターに乗り込んだ。そして、お兄ちゃんの部屋までくると、バッグの中から鍵を取り出すと中に入った。誰も居ないと分かっているから来れることであって、もしもお兄ちゃんが少しでもいる可能性があったら、私は来なかったと思う。

 鍵を開けて入ると、そこにはいつもの玄関があり、その先にはリビングが続いている。

 家にはその家そのものの香りがある。

 私はマンションの部屋に入ると懐かしい香りがすると思った。一緒に住みだして、私が気に入って使っていたアロマの香りがする。珪藻土で出来たアロマディフューザーにオイルを落とすのをお兄ちゃんは忘れてなかった。

 リビングに行かずに私は自分の部屋に入ると、部屋はそのままだった。 
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