君をひたすら傷つけて
 リズが私の部屋から当座に必要な荷物を取りに行ってくれたから、クローゼットの中は殆ど空になっていたけど、カーテンも机も本棚も何も変わってない。

 定期的の掃除がされてあるのか、フローリングの床に埃もなければ、ベッドの上のカバーにも埃っぽさはない。クローゼットの中が空なこと以外は何も変わらなかった。バッグをベッドの上に置いて、リビングに行くと、テーブルの上に少しの郵便物があるくらいで、後は何も変わらない。

 キッチンのシンクにはコーヒー飲んだ時に使ったと思われるマグカップがあった。私のマグカップは食器棚の中に入っていた。私が使っていた物は、全てそのままだった。一緒に買った食器も、部屋に置いた観葉植物もそのままで、時間が止まったままだった。そのリビングを見ながら、私は自分の瞳に涙が浮かんでいるのを感じた。

 自分の居場所な気がした。
 自分の家に帰ってきたような気がした。

 でも、ここは私の家ではない。

 私はいたたまれなくなって、自分の部屋に戻り、ベッドに置きっぱなしにしていたバッグを取ると、まりえのマンションに帰ることにした。ここにいると私は自分の思考を閉ざされてしまうような気がする。お兄ちゃんの事ばかりを考えてしまい、足が動かなくなる前に、鍵を閉めて外に出ることにした。

 マンションを出ると既に空には星が瞬いていた。時間にして少しの時間と思っていたけど、既に夕暮れから夜に移行していた。
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