イケメンすぎてドン引き!
ああ、あなた様に抱かれるなら、もうどうなっても構いませんー!
現実と漫画の狭間から戻って来れないあたし。
だがしかし。
「ってこんなセリフ、恥ずかしくて言えねーよ。お前さーこんなの読んで何が面白いの?」
先輩のダルそうな言葉に、一気に現実に戻されてしまった。
「べ、べべべ別にいーじゃないですか。少女漫画読んで夢見るくらい!」
「ふーん。現実では男慣れすらしてないくせに」
「ほっといてくださいよ。先輩こそ魔女っ子がピンチですよ! ほらほら応援してあげないと!」
あたしがそう促すと、先輩は「そういえば今いいとこだったんだ」と言って、
『魔女っ子ランデヴー♪』を再び広げた。
再び沈黙が訪れ、ページをめくる音だけがブースに響く。
「…………」
っはーーーーーー!
さっきの何アレ!
『何? 言葉だけでもう感じちゃった? ……じちゃった? ……感じちゃった?』
吐息混じりの先輩の声が、頭の中で二重三重に繰り返される。
(一応、ネカフェだからヒソヒソ声にならざるを得ないんだけど)
やばいやばいやばい!
ついさっきまで、漫画の中の王子様にときめいていたはずなのに、
現実のイケメン先輩からの囁き声が頭の中を埋め尽くしていく。
だって、だって、だって、吉野先輩のヒソヒソ声、せくしーすぎるし!
この前先輩に『すごく安心します』なーんて、自分でもびっくりな素直な言葉吐いちゃったくせに。
全然安心しねーし! 落ち着かねーし!
そう、テンパっていたが。
すー、すー。
おやまあ。
あたしの脳内スッチャカラッチャッチャッぶりなんか関係なく。
『魔女っ子ランデヴー♪』を読み終えた吉野先輩は、ソファーにもたれお眠りになられました。