とんだ勘違いから



「じゃ、とりあえずビール飲むけどお前は飲まないよな?」

まこは玲の店以外ではお酒を飲まないのを知っているからそう言うと




「今日は、ビール飲みます。」


と、目をキョロキョロしながら店の値札やメニューを見ている。


「えっ、何言ってんの?


飲むのか?」

「はい、今日は飲みたいんです。


それよりここ

すごく煙たいところですね。キャンプファイヤーみたい。


でもいい匂い。お腹空いちゃった。」

そう言ってビールを頼もうとしたまこに


「なんで飲むんだ、止めとけ。」


ちょっときつくなる言い方に有本とまこの両方が驚いたが

俺はまこにビールを頼まず烏龍茶を頼んだ。





俺とまこが隣に座りテーブルを挟んで有本がまこの前に座っているから

「川手さん焼けましたよ。さ、どうぞ。」

慎ましくまこの取皿にのせていく有本の姿に


「子供じゃねーんだからそれぐらいできるだろ。」


とまたうんちく並べてしまう。


まこが困ったような顔をして


「すいません。

私が割り込んだばっかりに。」


と有本にまた気を使うから俺は全く楽しくなくて酒を煽った。




ここは卓上炭で焼くようになっていて金曜日の会社帰りの親父どものいきつけの店的なところだ。

隣のテーブルではジョッキビールを乾杯して一気飲みしている奴らがいる。


仕事がうまくいって機嫌よく飲んでいるんだろう。



俺もこんな風に飲んでいたのに。



今日は少し苛ついてばかりだ。

そんなことこの二人は全く気にもしないで食べては楽しく笑いあっている。




一生懸命食べるまこに男なのに可愛い奴だなと思ってしまった。


まるで小動物のように、モグモグ食べる姿に。


「川手さん、しっかり食べてくださいよ。

これかんでる姿なんかすごく可愛いですね。」


酒に少し酔った有本が俺の思ったことを口にして


「今度はおしゃれなレストラン知ってるんで一緒に行きましょうよ。

ワインも美味しくて川手さん楽しめること間違いなしですよ。」



スラスラと有本の口調に合わしてまこも楽しそうにしているのがだんだん腹が立って

「トイレ。」

と言って俺はしばらくその場を離れた。



何やってるんだ俺。





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