我 、君ヲ愛ス…っ⁉︎
「へ……」
聞き覚えのある声が頭の中でしたかと思うと、身体から何かが抜けるような感覚に陥る。
『ーー御身体の調子は如何ですか、公美様』
霧のようなものが部屋の一部に集まったかと思うと、それらはみるみる内に人型になって、私の前に現れた。
「ぁ……貴方は……」
現れたのは、奥社で会ったあの不思議な人。
私は思わず、手元にあった枕を胸に抱き締めた。
『ーー公美様?如何なさいましたか?』
「貴方……一体どうやって……と言うより、どうして私の名前を」
面白いぐらいに声が震える。
昨日と言い今日と言い、変なことばかり起きる。
『はて……自己紹介は昨晩済ませたかと』
上品に首を傾げてみせる男。
一つ一つの所作が嫌に洗礼されていて、状況を忘れて見惚れてしまいそうになる。
「ーー知らないっ……私はっ、貴方なんて知らないっ‼︎」
言いながら、私は思いっきり枕を男に投げた。
『ーー』
枕が、男の人の顔面に直撃することはなかった。
コントロールが甘かったわけじゃない。
まして、避けられた訳でもない。
『公美様……人に物を投げるのは頂けない行為かと存じます』
何事もなかったように嗜める男の人に、私は返す言葉もなかった。
枕は、地に落ちることもなく空中で静止していたのだから。