我 、君ヲ愛ス…っ⁉︎

「へ……」



聞き覚えのある声が頭の中でしたかと思うと、身体から何かが抜けるような感覚に陥る。



『ーー御身体の調子は如何ですか、公美様』



霧のようなものが部屋の一部に集まったかと思うと、それらはみるみる内に人型になって、私の前に現れた。




「ぁ……貴方は……」



現れたのは、奥社で会ったあの不思議な人。



私は思わず、手元にあった枕を胸に抱き締めた。



『ーー公美様?如何なさいましたか?』



「貴方……一体どうやって……と言うより、どうして私の名前を」



面白いぐらいに声が震える。



昨日と言い今日と言い、変なことばかり起きる。



『はて……自己紹介は昨晩済ませたかと』



上品に首を傾げてみせる男。



一つ一つの所作が嫌に洗礼されていて、状況を忘れて見惚れてしまいそうになる。



「ーー知らないっ……私はっ、貴方なんて知らないっ‼︎」



言いながら、私は思いっきり枕を男に投げた。



『ーー』



枕が、男の人の顔面に直撃することはなかった。



コントロールが甘かったわけじゃない。



まして、避けられた訳でもない。



『公美様……人に物を投げるのは頂けない行為かと存じます』



何事もなかったように嗜める男の人に、私は返す言葉もなかった。



枕は、地に落ちることもなく空中で静止していたのだから。







< 14 / 18 >

この作品をシェア

pagetop