桜ノ華
慣れたように助手席に座ろうとする。
不意に視線を感じて顔を上げると、
そこには"彼"の姿があった。
遠くて表情は見えない。
でも、囚われて、動けなくなる。
「桜? どうしたの?」
「あ、っ…いえ…」
曖昧に微笑んで、車に乗り込んだ。
見なかったことにして、心を閉ざす。
まだ書類上の関係でしかないとはいえ、自分は颯介の"妻"。
自覚を持たなければ。
「いつものフレンチでいい?」
「あそこ、好きです」
「僕も! じゃあ行こうか」
「はい…」
―あなたの辛さに痛みに
気づけなかった私をお許しください