桜ノ華
「桜」
「何ですか、啓志さん」
啓志専属の使用人となったため、
仕事をしているとまるで生徒会時代に戻ったような気分になる。
「君の母親が、父親と無理心中を図ったそうだ」
「…!」
机を拭いていた手が止まった。
「…そう、ですか」
「ああ。…君にはもう関係ない話だったか」
「…ええ。その通りです、啓志さん」
恋人よりも穢れ、愛人よりも甘くなく、
主従というには束縛が足りない、そんな曖昧な関係。
時折、あの頃を懐かしむように抱き締められるけれど、それだけ。
そんな関係は、啓志が結婚しても数年続いた。
罪悪感は、もはや感じなかった。