桜ノ華
地下の使用人室に行き自分の荷物をまとめる。
元々そんなに物がないためすぐに終わった。
必要なのはこの身と思い出、そして啓志から贈られたたくさんの物。
別れを惜しむ同僚もいない。
できるだけ痕を残さないよう、屋敷を出た。
向かう先は決まっていない。頼れる人もいないのだから。
使用人をして貯めた貯金があればしばらくは持つだろう。
「…ごめんね、考えなしのお母さんで。でも、頑張るからね」
お腹を緩く撫で呟いた。
「できるだけ遠くに…そうだ、海に行きたいな」
小さい頃、家族で海辺の別荘に行ったことがあるのを不意に思い出す。
そうと決まれば、向かう先は駅。
終着駅までただ乗っていればいいだけだからと、
電車内では寝ることにした。
まるで思いつきの小旅行のように気分は軽い。