桜ノ華
「さすがにもう無いかなあ…」
記憶を頼りに見慣れない道を歩く。
桃色のワンピースを潮風が揺らして心地いい。
「おや? 見慣れないお嬢さんだねえ。旅行かい?」
ふと聞こえた声に振り向くと、日向ぼっこをしている様子の老婆がいた。
「こんにちは。旅行というか…思い出巡り、というか」
「そうかそうか、ここはいい町だよう。食べ物もおいしいし空気も綺麗だ。
あんた、三条って旧家知ってるかい?
あたしゃ、そこの先代に大変お世話になってねえ。
ほら、ちょうどそこにあった別荘の管理を任されてたんだが、
三条が無くなって、別荘も無くなってねえ…」