桜ノ華



だけどこの町での暮らしは、
今まで感じたこともない安らぎを桜に与えた。


「今日もいい天気ね」


毎朝、海辺を散歩するのが日課。

妊婦にも運動は必要だと陽人に言われ始めたことだが、
今では癒しの時間となっている。


「そろそろ寒くなる季節だから、気をつけないとね。

あなたまで苦しめてしまうもの」


お腹をさすり、呼びかける。


「早く会いたいなあ。男の子かしら、女の子かしら?」


産まれるまでの楽しみに、性別は聞かないことにした。


「啓志さんに似たら、不器用で無愛想な子になるかな。

だけど私はきっと、そこをとても愛しく思うんでしょうね」


くすくすと笑みを漏らす。

もう、前ほど心は痛まない。



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