桜ノ華
ざあ、と吹いた強い風が、この身をも攫ってくれればいいのに。
「簡潔に言おう」
啓一郎は海を見つめ。
「啓志は死んだ」
世界が黒く染まった気がした。
「どうやらここに来る途中だったようだ」
腕の中の椿を、ぎゅっと抱きしめる。
「…すまない。君にも、啓志にも、辛い思いをさせた」
ただ茫然とする桜に、啓一郎は頭を下げ。
「…なんて、今話すことではないかな。
落ちついたら、一度南十字の屋敷に来てほしい」
そう言い残し、去った。