Blackberry〜黒い果実〜
よく知っている、その声。


グラスの冷たさが移ったかのように、身体が冷たくなって動けなくなった。


「待ってたよ、愁ちゃん」


声を弾ませる佐藤さん。


名前を聞かなくても分かってた。
持ち上げたままのグラスに映る、彼のスーツ姿。


……高瀬先輩。


一瞬だけ、瞬きをする間だけ目を閉じて、竜司を思い浮かべる。
グラスをテーブルに置いて、ゆっくりと立ち上がり彼に向き合う。


静かに営業スマイルを作って、会釈した。


「はじめまして、若葉です」


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