あなたと恋の始め方①
「高見主任は取締役と一緒に静岡支社長と研究所所長と一緒に会食が決まっているけど、俺はフリーだよ。だって、役もついてない一般の会社員がそんな重役と一緒に食事とかないだろ」


 そう言って折戸さんは笑うけど、折戸さんなら別にその場に居ても何の違和感もないと思う。むしろ、高見主任にしてみれば折戸さんが居てくれた方がいいのではないのだろうか?でも、高見主任も折戸さんに何も言わないところを見ると、折戸さんは本当にフリーなのだろう。


 でも、折戸さんの見つめてくる瞳の甘さから鈍いと言われる私でも分かる。これは曖昧じゃない。ただの食事でもなく、個人的なデートのお誘い。私は折戸さんから二度目のプロポーズをされている。正直結婚とかは考えられないけど、私は折戸さんのことはとっても好きだった。あのプロポーズさえなければ私は何も考えずに一緒に食事に行ったと思う。


 小林さんが好きな私が折戸さんと一緒に食事をするということの意味を考えてしまう。


「そんなに深刻に考える必要ない。坂上さんが行きたいと思えばいけばいいし、行きたくないなら行かなくても平気だぞ。折戸と一緒に食事に行きたい人間なんか腐るほどいる。男も女もな。それに俺と一緒に取締役との会食に参加してもいい」


 そんな高見主任の言葉は少しだけ私の心を軽くはしたけど、心の奥底に残るしこりまでは払拭できない。そうはいうけど、もしも私が断ったら折戸さんはきっと一人で食事をするだろう。私を誘ったのに他の人と一緒に食事に行くような人ではない。


 これは私が本社営業一課で一緒に過ごしてきたからわかること。

< 100 / 403 >

この作品をシェア

pagetop