あなたと恋の始め方①
 こんな時はどうしたらいいのだろう。でも、どんなに考えても私にはきちんとした答えが導き出せなかった。言いようのない緊張が漲り、さっきまで柔らかな雰囲気だった座敷とは全く違う場所にいるようだった。でも、結局はここでも私は折戸さんに甘えてしまう。


 折戸さんは私を見つめ、クスクス笑う。その微笑みで一気にその場の雰囲気が緩んだのを感じたのは私だけではない。緊張が一瞬で消えていき、さっきまでの柔らかな雰囲気が戻ってくる。こういう時の折戸さんの優しさが私は好きだった。意地悪な顔をしていたのに、今は私に逃げ道をくれる。


 自分の心の動きさえ思い通りにならない私にとっては折戸さんの微笑みに何度も助けられている。


「そんなに深く考えないで。静岡まで来て一人で食事するのは味気ないから、美羽ちゃんを誘っているだけだよ。それに一人よりも二人の方が入れる店も増えるでしょ。面倒なことは置いといて一緒に美味しいものを食べよう」


 一人で入れる場所と、一人では難しい場所。それは私も分かる。穏やかにそう言われると、私は自然にその笑顔と優しさに頷いていた。本当はもっと真剣に考えないといけないことだけど、今は折戸さんの優しさに甘えておくことにした。


「わかりました。…あの、楽しみにしています」


 私のそんな言葉に折戸さんが今まで以上に綺麗な顔で微笑むからドキッとしてしまった。目が眩みそうなほどの甘い微笑みが私に降り注ぐのを感じずにはいられない。


「じゃ、約束だよ。忘れないで」
< 101 / 403 >

この作品をシェア

pagetop