あなたと恋の始め方①
 小林さんに折戸さんと一緒に食事に行く約束をしたことを言った方がいいの?それとも言う必要がないの?まだ内々の事とはいえ、フランスの交換留学の話はした方がいい?曖昧な関係だから、どこまで言っていいのかが分からないというのが私の本音だった。悩みだけが心に浮かんで、研究の数値を打ち込みながらもそれは消えてはくれない。どうしていいのか分からない。


 私から折戸さんとの食事とかフランス留学のことを聞いたら小林さんはどう思うのだろう。私の心の奥に密かに芽生えたのは小林さんの恋心。それは私が折戸さんのことを思う気持ちとは違う。私が悩み過ぎないように軽く言ってくれたけど、折戸さんの言葉には真剣な思いが込められている。でも、その思いを私は受け止められない。


 でも、『恋人いない歴=実年齢』の私が折戸さんのような素敵な人を断るなんて身の程を弁えるべきなのではないかと思ったりもする。実際に私は折戸さんに好意を持っているし、恋愛としての好きではないけど、人間としてはとっても好き。結婚と恋愛は違うとは分かっているけど、経験がない分、その二つを切り離すことは出来なかった。



「坂上。それが終わったらこれ」


「はい」


 中垣先輩は私の手が止まることのないように次々に仕事を私の机に積み上げていく。残業はしないつもりなのかもしれないけど、時間中は容赦ない。ファイルを見ながら溜め息をまた零した。とりあえず全て忘れて仕事に没頭しようと思った。
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