あなたと恋の始め方①
「そろそろ終わろうか。所長と一緒に出掛けないといけない」
そう中垣先輩が言ったのは定時を過ぎたくらいの時間だった。所長は本社から来た取締役と支社の支社長、そして、高見主任と一緒の会食に出席することになっていた。普段はこういう会食には出席なんかしない中垣先輩だけど、今回は逃げれなかったようだった。新製品の開発についての事で静岡に来た取締役から直々に言われると断れないのだろう。
接待を嫌う中垣先輩はすこぶる機嫌が悪かった。
「坂上が代わりに行ってもいいぞ」
「いえ、ご遠慮します。それに今日は折戸さんと食事するようになってます」
「だと、思っていた」
それだけ言うと溜め息を零しながら白衣を脱ぎ、代わりにスーツの上着を羽織った。普段見慣れない姿だから、一瞬、凝視してしまった。中垣先輩もいつもは研究所に住んでいるようなものだったから、着古したシャツにジーンズの姿がしっくりくる私には違和感がありまくりだった。
「こういう格好は嫌いなんだ」
「でも、なんか新鮮ですよ」
中垣先輩は私の方をスッと見つめると、もう一度嫌そうな顔をした。本当に行きたくないのがアリアリだったけど、これも仕事の一環だから頑張って貰わないといけない。
「でも、今日は高見がいるから少しはマシかもしれない。あの男なら、所長も取締役のお守りもお手の物だろう。俺は美味しい食事と酒を飲みに行くだけ」
そう自分に言い聞かせるように言うと、『お先』とだけ言って中垣先輩は研究室を出て行ったのだった。
そう中垣先輩が言ったのは定時を過ぎたくらいの時間だった。所長は本社から来た取締役と支社の支社長、そして、高見主任と一緒の会食に出席することになっていた。普段はこういう会食には出席なんかしない中垣先輩だけど、今回は逃げれなかったようだった。新製品の開発についての事で静岡に来た取締役から直々に言われると断れないのだろう。
接待を嫌う中垣先輩はすこぶる機嫌が悪かった。
「坂上が代わりに行ってもいいぞ」
「いえ、ご遠慮します。それに今日は折戸さんと食事するようになってます」
「だと、思っていた」
それだけ言うと溜め息を零しながら白衣を脱ぎ、代わりにスーツの上着を羽織った。普段見慣れない姿だから、一瞬、凝視してしまった。中垣先輩もいつもは研究所に住んでいるようなものだったから、着古したシャツにジーンズの姿がしっくりくる私には違和感がありまくりだった。
「こういう格好は嫌いなんだ」
「でも、なんか新鮮ですよ」
中垣先輩は私の方をスッと見つめると、もう一度嫌そうな顔をした。本当に行きたくないのがアリアリだったけど、これも仕事の一環だから頑張って貰わないといけない。
「でも、今日は高見がいるから少しはマシかもしれない。あの男なら、所長も取締役のお守りもお手の物だろう。俺は美味しい食事と酒を飲みに行くだけ」
そう自分に言い聞かせるように言うと、『お先』とだけ言って中垣先輩は研究室を出て行ったのだった。