あなたと恋の始め方①
 私は大学の時から研究に勤しんで来た。


 でも、私も研究熱心な方だと思うけど中垣先輩は私以上だと思う。研究職と言うのは合う合わないがあるけど、中垣先輩にしてみれば転職だろう。だからと言って、毎日研究が終わらないからとソファで寝て貰っても困る。身体を壊しては元も子もない。それに、高見主任の言う期日まで続くとなると体調管理は必須。


「今日は絶対に部屋に帰ってください」


「気が向いたら」


 そう半分聞き流したような言葉を言いながら、私の方に空のマグカップを差し出した。二杯目のコーヒーを要求する時は何か詰まっている。気持ちを落ち着かせたいのだろう。眠気覚ましだけではないようだった。実際に高見主任の言った期日は正直厳しいし、無理に近い。それでも中垣先輩はそれに向かっていくのだろうか?


「春までか…。結構厳しい。でも、間に合わせる」


 そんな呟きにマイペースに生きている中垣先輩に高見主任という強烈なカンフル剤が投入されて…。私の想像以上に中垣先輩は本気だった。


「春ですね。桜の綺麗な季節でしょうか?」


「桜とか見ている暇はないだろ」


 気休めを言ってみるとバサッと切り落とされ、パソコンから鋭い視線が私に刺さる。鋭い視線が一瞬突き刺さったかと思うと


「どうする。フランス留学」


 さっきまで春だの桜だの言っていたのに、急に話の展開はフランス留学。私はというと、小林さんとのことですっかりそのことを忘れていた。

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