あなたと恋の始め方①
 三人で片づけをしてからそれぞれの研究室に戻ることにした。片付けながら先ほどのフリーズしたパソコンを思い出す。一時間半も掛かったのに、それを無駄にしたのだから、少しでも早く戻らないといけないのに、川田さんと住田さんとの話がとっても楽しかったからつい時間が過ぎるのを忘れてしまっていた。


「今度一緒にランチでも行きましょう」


 そんな川田さんの言葉に頷くと私は自分の研究室に戻ったのだった。


 研究室は出て行った時と全く変わってなかった。中垣先輩はパソコンの前に座り、川田さんが怖いと言っていた縦皺を入れて、難しい顔をしている。ドアが開いて入ってきた私に中垣先輩の鋭い視線が刺さる。そして、視線を逸らすと、小さく呟くような声を出したのだった。


「そんなに落ち込んでいたのか?落ち込んでも仕方ないだろ。消えたデータをもう一度打ち込むのは面倒だろうけど頑張るしかない。さっき、坂上のパソコンを見ていくつかのファイルを保存したら少しはマシになったと思う。もしも終わらなかったら俺も手伝うからそんなに落ち込まなくていい」


 中垣先輩は私がパソコンがフリーズしてデータが飛んだのを酷く落ち込み、研究室に戻れなかったのだと思ったみたい。


 だけど、話していたガールズトークは『勝負下着→ヒモパン→折戸さんの彼氏説』


 こんなことなんか話せない。
 だから、一言。


「頑張ります」


 実際に私はそれから頑張った。とりあえずキーボードの上を必至に指を躍らせる。一心不乱に打ち込む私に中垣先輩は溜め息のような息を吐いた。それでも、まだ、消えた部分の復元は出来てなかった。

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