あなたと恋の始め方①
「小林さんも忙しかったのですね」


「仕方ないけど、頑張らないと」


 そんな話をしていると電車は車体を揺らしながらも私が降りる駅までもう時間はない。会社の近くに住んでいるのだから仕方ないけどそれにしても一人の時よりも早く感じる。そして、もう少し小林さんと一緒に居たいと思う私の気持ちを汲む必要のない電車はスムーズにホームに滑り込んだ。小林さんの住んでいるマンションの最寄駅はもう一つ先だからここでお別れ。『お疲れ様でした』と言って電車から降りようとした私の横を小林さんは当たり前のように降りたのだった。


「もう少し美羽ちゃんと一緒に居たいから送る」


 夜も遅い時間だからこのまま電車に乗って行った方が小林さんは楽なのに、それよりも一緒にいることを望んでくれている。


「ありがとうございます」


 二人で一緒に帰るのは何度もあるのに、今日は一段と恥ずかしい。小林さんはいつものように私のマンションの方に当たり前のように歩きだし、私はその横を並んで歩く。たったこれだけで幸せだし、さっきまでの研究での疲れも消えていく。


「明日は何時に待ち合わせにしようか?早い時間から行って遊園地でいっぱい遊ぼう」


「遊園地に行くには小学校以来なんです」


 小学校の遠足で行ったのが最後だと思う。それも、遠足だから乗り物には乗った記憶はない。動物園とか植物園や博物館にはたくさん行ったのに、遊園地となると…本当に遠足だけだった。


「そっか。じゃあいっぱい楽しまないとね」

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