あなたと恋の始め方①
 銀のトレーの上には美味しそうなケーキがあって、視線が囚われる。大きめのお皿の上にケーキと色とりどりのフルーツとアイスクリームが添えられている。フルーツは綺麗に整えられとっても美味しそう。ケーキだけでも美味しそうなのにフルーツとアイスクリームの取り合わせなんて女の子の目を見開かせる。でも、タイミングはこの上ないくらいに微妙。


「大変お待たせしました」


 ドラマか漫画でありそうなベタなシーンに間の悪さを感じ、『小林さんが好き』と言おうとした私の勇気は簡単に消えていく。このタイミングで『小林さんが好き』だなんて言えないし、小林さんも聞いて来れないだろう。


「どうぞごゆっくり」


 ケーキと飲み物が並べられて、小林さんの方を見ると顔を緩めていた。


「さ、食べようか」


 フォークを私に渡す小林さんの手を私はキュッと握った。そして、見上げるといきなり私が手を握ったので少し驚いたような顔をしていた。口で言えばいいのに、つい手が先に動いてしまって、握ったはいいけど、これをどうしようかとも思案する。でも、やっぱりこれは外せないと思うと自然に自分の口から言葉が溢れた。


「まだ、大事なこと終わってないから」

「大事なこと?」


「小林さんのお誕生日のお祝いをするためにここに来たのに」

「歌ってくれるの?」


 うた…う???
 バースデーソング???


 小林さんの顔が私の顔を覗き込む。ちょっと意地悪そうな顔をしていて、そんな子どものように無邪気な様子に顔が緩みそうになるけど…。ちょっぴり悪戯したくなった。

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