あなたと恋の始め方①
「美味しいです」


「ならよかった。さ、食べよう」


 そういうと、小林さんは自分もケーキを食べだした。その美味しそうにケーキを食べている姿に視線が吸い寄せられる。大人の私がいうのも可笑しいけど、さっきのは『間接キス』だった。自分でも何を考えているんだとジタバタする。頭がショートしそうになり、私の心臓が思いっきり飛び跳ねた。中学生や高校生とは違うんだから、こんなことに動揺するのは可笑しいのに私は明らかに動揺していた。


 妙に小林さんの唇が目に入って、ブンブンと頭を振って思考を健全に戻したい。好きなんだけど、好きという淡い気持ちよりも一緒に居たいとかもっと傍に行きたいとかの強い気持ちが強すぎて自分を持て余してしまう。恋をするとなんでこんなに好きな人でいっぱいになるのだろう。普段ならなんてことのないことが高等技術であったり、キャパを簡単に超えてくる。


「美羽ちゃんのも味見させて」


 小林さんにそう言われて、私は貰ったのに自分のを上げてないのを気付いた。自分の事で精いっぱいで小林さんが見えていなかった。私が自分のケーキのお皿を小林さんの方に押そうとすると、それを小林さんは人差し指で止める。そして、少し意地悪な顔をしてニッコリと笑う。


「美羽ちゃんが食べさせて」


 意味は分かるけど頭に浮かんだ文字は『無理』。ケーキをフォークに乗せるくらいは出来る。でも、緊張のあまりに手が震えてしまい落としてしまいそう。


 小林さんは私を心臓麻痺させたいのかもしれない。

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