あなたと恋の始め方①
 小林さんは本当にゆっくり走っていたのだと思う。私の声で息が切れているのに気付いたらしく、急に止まると、私の顔を覗き込む。凄く心配そうな顔には薄っすらとすら汗はかいてなくまるで冷暖房完備の部屋で寛いでいるかのような様子に清々しさを感じた。私を覗きこむとサラッと髪が揺れる。


 それに比べて私は息が切れるどころか、立ち止まった今でも息が整わない。研究室にいるとはいえ、時間があれば中庭を歩いたりもしているし、最寄りの駅から歩いたりもしているからそんなに運動不足の自覚はなかった、でも、今は運動不足だと骨身に染みている。距離にして僅かなのに動悸が激しいし、小林さんと違って汗をかいた私はガッツリと運動をした後のようだった。


 背中に汗が流れそうだった。


「大丈夫?少し速かった?前の二人が余りにも熱烈過ぎて逃げたかった」


「大丈夫です。それに私も目のやり場に困りました」


「仕方ないよ。多分あの二人も遊園地であの夢のようなショーを見てきたのだろうから、気持ちも盛り上がっているんだと思うよ。でも、目のやり場に困ったのは俺も一緒だけど」



 少し走ったせいで、さっきの熱烈カップルは見えなくなったし、今から食事をしようとする場所には歩くよりも早く着いた。さっきの店はたくさんの人が並んでいたのに、この店は並んでない。違いは多分、この店の方が見るからに豪華な佇まいをしているからだと思う。


 さっきの店はどちらかというとカジュアルな感じで、大人も子供も楽しめるという店だったけど、この店は大人の雰囲気の溢れる店だった。
< 307 / 403 >

この作品をシェア

pagetop