あなたと恋の始め方①
「生春巻が食べたいです。後は小林さんが選んでもらえますか?」


「じゃあ適当に頼むね」



 小林さんが頼んでいく料理は二人で食べるには多すぎるくらいだけど、小林さんならちょうどいいくらいの量だった。その他の量に驚かないのは私が何度も小林さんと一緒に食事に行っているからでどれだけ小林さんが食べるかを知っている。付き合っては間もないけど、一緒に食事にしていたのは数えきれないほどでこんな風に何度も向かい合わせで食事をした。


 そう考えると、実際に彼氏彼女として付き合った期間は短いけど、重ねてきた時間はたくさんあると思う。


 恋人と友達とその境目は曖昧で彼氏彼女としての線引きの意味を考えてしまった。


 テーブルに並ぶ食事を見ても、そんなに驚かないのはその証拠。その中に小林さんが大好きなものもあるのが分かるのも、その証拠。私と小林さんの距離は思ったよりも近いのかもしれない。いつの間にか私は小林さんに恋をしていて、今は自分の中に小林さんはしっかりといて、私は近づく度に意識してしまう。



 小林さんはいつもの小林さんなのに。
 そんなことは私が一番よくわかっているのに。


「足りますか?」


「うん。でも、足りなかったらまた頼むから、美羽ちゃんは好きなだけ食べてね」


 そんな優しい言葉と共に始まった食事はいつも通りとっても楽しくて、美味しそうに食べている小林さんの姿を見ているだけで幸せだった。

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