あなたと恋の始め方①
 これが私と小林さんの恋の始め方だと思う。ドラマチックでも激情に溢れるものでもないけど、私はこの恋の始め方はとっても小林さんと私らしいと思う。少しだけ甘さを含んではいるけど普段のままというのがいい。


 レストランを出たのはそれからしばらくしてからのことだった。ニッコリとした微笑みから、零れそうなほどの幸せそうな微笑みに変わったのを確認してから、私と小林さんはホテルに向かって歩き出す。


「どこか寄る?」


「行きたいけど、足が疲れてしまいました。」


「おんぶしてあげようか?」


「このままがいいです。」


 今日のマストともいえるくらいに私は小林さんの腕に自分の腕を絡ませる。恥ずかしいとは思うけど、嬉しい思いもあって、その気持ちは天秤のように微かに揺れている。


 でも、さすがに『おんぶ』なんて恥ずかしすぎる。


「残念。美羽ちゃんを背中に乗せて走ろうと思ったのに」


 残念と言いながら、顔は笑っている。どこまで本気かどこまでが冗談か分からない。実際に小林さんの体力なら私をおぶって走るくらいは大したことないだろう。


「走ったら、さっきのビールが回りますよ」


 エスニック料理を食べながら、小林さんはビールを飲んでいた。そして少しの酔いがとっても気持ちよさそう。少し酔っているのだと思う。


「ヤバいな。酒を飲むと気持ちが大きくなる。今、ここで美羽ちゃんが大好きだと叫びたい気分」


「それってかなり迷惑ですよ」
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