あなたと恋の始め方①
 見上げると小林さんの顔は私を見つめていて、いつも通りに優しい微笑みを浮かべている。さっきのホテルの部屋もそう。今回の事もそう。小林さんはいつも私のことを第一に思ってくれる。色々な言葉はいらないと思った。多分、それだけで小林さんに私の気持ちは伝わる。


「私も小林さんが大事です」


「あ、マジで美羽ちゃんには参る。さっきまで頑張っていい大人を気取ったのに、美羽ちゃんにそんなこと言われたら俺の鉄壁の理性が崩壊する」


 私の身体はフワッと優しく小林さんの腕に包まれる。幸せを身体中で感じながら、私はもっと近づきたくて小林さんの腕にしがみ付いた。


「マジで可愛すぎる」


 少し溜め息にも似た言葉を発する小林さんに抱き寄せられながら私はさっき歩いてきた道をゆっくりと戻る。目の前にはホテルがあって…。私の緊張は次第に高まりだした。歩きにくそうだから離れようとすると、その度に私の身体は小林さんに引き寄せられた。


 ホテルに着いたのはコンビニを出て暫く経ってからだった。二人でゆっくりと歩くから行きよりも帰りの方が時間が掛かっていた。ホテルの入ってしまうと足の疲れを感じるのに、もっと一緒に歩きたかったと思う矛盾が私の心に生まれていた。足の痛いのを忘れるくらいに私は幸せだった。
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