あなたと恋の始め方①
 ホテルの中はさっきまで混雑していたロビーもフロントも静まりを見せていた。


 チェックインのお客も一段落なのだろう。ホテルの宿泊客は遊園地の閉園と同時にチェックインのピークを迎え、そして、今は静まり返っている。さすがに夜も更けてくるとロビーに居る人はいなくなる。私はそんな静まりを見せているロビーを横目に小林さんの腕に肩を抱かれたままエレベーターに乗り込んだ。そして、私と小林さんの泊まる部屋の前まで誰にも会うことがなかった。


 部屋が近づく度に私も小林さんも徐々に口数が減っていく。私は緊張して堪らないけど、同じように小林さんも緊張しているのだろうか?部屋の前に来ると小林さんが胸元からカードキーを取り出すと、ドアに差し込んだ。そして、部屋が開いたと同時に明かりが点いたので眩しさのあまりに目を閉じてしまった。


 そして、ゆっくりと目を開けるとそこに広がるのはさっきも綺麗と思ったけど、もう一度見ても綺麗だと思う部屋だった。今日はここで小林さんとの夜を過ごすことになる。ドアを開けてくれた小林さんの横を通り部屋に入ると後ろでドアが閉まる音がした。


 ドアの鍵を閉めると小林さんは私の手首をサッと引いた。いきなり手を引かれたので、私の身体は簡単にバランスを崩して、小林さんの腕の中に包まれてしまった。小林さんは私の身体を抱き締め、そのまま私をドアに押し付ける。小林さんのいきなりの行動に私はどうしていいか分からないまま、小林さんの胸に頬を寄せるしかなかった。
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