あなたと恋の始め方①
 暫くして、ガチャっという音と共に小林さんがバスルームから出てきた。ガチャっという音で身体がビクッと飛び跳ねてしまった。不自然な態度を取ってはいけないと、自分に言い聞かせる。そして、ソファの上のコンビニの袋を見ないように視線を外す。


 バスルームから出てきた小林さんはホテルのガウンを着ていた。所謂バスローブってもので、外国の映画で見たことあるけど、実際に見たのは初めてだった。旅館で着る浴衣のほうがまだ良かったと思うくらいに色気を感じる。実際、着てきた洋服を着て寝るわけにはいかないからバスローブを着るのが当たり前といえば当たり前だった。それなのに私はドキドキが止まらなくなっていた。


 でも、目のやり場に困る。
 野球で鍛えたその身体は均整が取れていて綺麗だと思う。


 鎖骨からの線がとても綺麗で昔美術の教科書で見たことのある彫像を思い出させた。身体のラインは美しく滑らかで…でも、それは下半身を露出しているものだった。美術的価値があるとはいえ、今の状態で浮かんでくるのにただ焦るばかり。今の小林さんはきちんとバスローブの紐で結わえられているので見えないのに急に顔が熱くなる。

 それでなくても、小林さんは濡れた髪を晒しながら私の方に歩いて来る。ドライヤーを掛けてないのか、滑らかな髪の束の先から水滴がゆっくりと落ちていく。それは肩に掛けられているタオルに吸い取られていくのだった。
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