あなたと恋の始め方①
「そろそろ帰らないといけないね」


 そう言ったのは小林さんでその言葉には少しだけ残念そうな色を染めている。私が思うのと同じくらいに小林さんも今日という一日が終わるのを惜しんでくれているのだろうか?


「そうですね。そろそろ、新幹線の時間もありますしね」


 昨日の夜、小林さんと私は今日の帰りの新幹線の時間を変更していた。本来なら、昨日帰るはずだったのをキャンセルして、一日遅らせた新幹線を予約しなおしていた。でも、いくらまだ一緒に遊びたいとしても明日は小林さんも私も仕事なのだから、帰らないわけにはいかない。


「そうなんだけど、帰りたくない」


 私も同じ気持ちだったけど、もう、帰りたくないとは言えない。昨日の夜には言えた我が儘が今日は言えない。


「明日、仕事ですね」


「そうなんだけど…。美羽ちゃんといると楽し過ぎて時間が過ぎるのが早い」


 小林さんも私と同じことを考えていた。私が帰りたくないと同じように考えていたのだろう。でも、帰る時間はやってきていて、私は小林さんと一緒に新幹線のホームに並んでいた。そして、五分もしないうちに新幹線はホームに入ってきたのだった。


「美羽ちゃんは窓際だよ」


 そういって、小林さんは私を窓際に座らせると、自分はその横に座る。そして、フッと息を吐いた。昨日から長い時間を動いているから、小林さんは疲れたみたいだった。


「疲れました?」


「ううん。疲れてないけど、帰りたくないって思った」


「私もそう思います。楽しかったです」


「俺も楽しかった」

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