あなたと恋の始め方①
「何か買うのですか?」

 
 そう聞いたのは小林さんの手にはしっかりと二冊の本が持たれていて、そのどちらかを買うのではないかと思ったからだった。でも、その本を見て、小林さんはフッと顔を緩めただけで、本を最初に置いてあったと思われる棚に片付けたのだった。


「欲しいけど、今買ったら重たいし後から買うことにする。美羽ちゃんを送ってきた帰りにでも買う」


 経済関係のその本は確かに一日持ち歩くには重すぎる。


「そうなんですね」


「さすがに美羽ちゃんとのデートの間中筋トレするつもりはないよ。で、今日は映画でいいの?他に行きたいところがあったらそこでもいいし」


「映画で大丈夫です」


 そんな私の言葉で映画に行くことが決まってしまった。


 映画は好きだけど、あまりにも感情移入してしまうのが困る。小林さんの前で号泣したらどうしよう??きっと優しい小林さんは私を見て心配してしまうだろう。そんな場合に『これはいつもの事なんで気にしないで』と言っても…。


 そんな不安を抱く私は小林さんと一緒に来たのは複合型の映画館で、ショッピングモールも併設しているものだった。映画も楽しめるけど、ショッピングも食事も楽しめるその施設は土曜の昼はたくさんの人で埋め尽くされていた。家族連れだけでなく、恋人同士のデートスポットとしても人気があるのか、たくさんの恋人同士と思われる人が並んで歩いていた。

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