あなたと恋の始め方①
 恋をしてその思いに自覚した時に感じる苦しさは私の想像以上だった。もしも、あの空港でこの思いを自覚していたら…私は我が儘を言って今も私の横には小林さんがいてくれたと思う。そして、折戸さんに何と言われても自分の気持ちを押し通すことが出来たかもと。


 自分の中途半端さと恋を自覚するタイミングの悪さに辟易しながらもそれが自分だから仕方ないと諦めるしかない。中途半端で優柔不断。


 好きなのは小林さんなのに、折戸さんのまっすぐな言葉にも揺れてしまった。自分のことは自分で決めてきた私がこんなに揺れるのは愛されたいと思うからかもしれない。折戸さんは折戸さんでとっても魅力溢れる人で私には勿体ないくらいの人だし、小林さんもそう。


 本社営業一課。


 ここに赴任するまでは私はただの研究員で研究対象とパソコンとだけ関わって生きてきた。でも、本社営業一課で私は人との関わりを学んだ。その関わり方が変わったことで私の周りには格段に人が増えている。


 人生は色々な出会いがあると思うけど、あの時に研究職を捨ててまで新しい世界に飛び込んだのは私の人生の転機だったと思う。これ以上ないくらいの幸運に恵まれただけでなく、色々なことを知った。


 人を大事に思う気持ち。
 人を好きになる気持ち。
 人に自分を好きになって欲しいと思う気持ち。


 自分の中に生まれた感情に翻弄されるけれども、本社営業一課での日々は私のとっての分岐点だったと思う。

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