あなたと恋の始め方①
 なんでそんなことを高見主任は知っているのだろう。私はそんな話をしたことない。私がフランス語を勉強していたのは大学の時からだった。それも理学部の私が原書を読みたくて勉強しただけで辞書を片手にないと全然駄目なくらいのレベル。フランス語が分かるというレベルではない。


「いつかの同行の時に研究素材についてのことを話していたよね。その時に、英語だけではヨーロッパでの研究は厳しいと言っていただろ。それに営業一課に来た時にダンボールの中にくたびれたフランス語の辞書があったから、そうじゃないかと思っていただけだよ」


 高見主任の洞察力は履歴書にも書いてないこと見破ってしまう。自分で勉強したレベルだから、専門用語はまだ無理だし、話せるととも言い難い。でも、大学の頃から原書で読みたいという思いが心の奥底にある。だから、翻訳される前の原書を自分で辞書を引きながら読むこともある。


「当たったでしょ?」


「少し分かる程度です。出来るというレベルじゃないです」


「謙遜しないでいいよ」


 謙遜でも何もない。本当に微かに分かる程度。それに研究所となると、専門知識になるので、私のレベルでは追いつかない。そこはきちんと押さえておかないと困る。高見主任は欲目が強すぎる。私は一般の普通レベルの女なので、高見主任や折戸さんのように万事に優れているわけではない。


「でも、本当に」


「でも、全くわからないわけではないでしょ。」
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