小路に咲いた小さな花
「つまり、伊原さん以外は眼中にないってこと?」

「そうそう。でも、さっきの話だけど、彼氏が出来たら査定はともかく会わせて」

「なんでー?」

「お祝いしよう、お祝い」

ニコニコ微笑む敬ちゃんに、どこか違和感。

彼氏が……って言われてもな~。

商店街で生活が事足りてしまうから、あまり外出もしないし。

「まずは出会いがないよね」

「そうだろうね」

「…………」

そうだろうね……か。

確かになぁ。

小中学校時代は女友達しかいなかったし、高校は女子高だし。

男の子の友達もいたはずだけど、気がつけば縁遠くなってたしなぁ。

「悪い虫は退治してたしね~」

「…………」

何を聞いたかな。

今。まさに今。

「敬ちゃん……何か言った?」

「大したことは言ってないよ?」

「本当に?」

「うん」

どうしよう。

この笑顔がとても胡散臭いものに……っ!

「ついたよ。こっち」

手を繋がれて大きなマンションに入ると、ニッコリと水瀬さんが待ち構えていた。

「男の人は先にどうぞ?」

敬ちゃんと視線を合わせ、手が離れた。

見ると男の人たちはすでにエレベーターに乗っていて、敬ちゃんが軽く手を振ってそれに加わった。

「また後でね」

それに手を振り返し、エレベーターが見えなくなると水瀬さんが苦笑する。

「そんなに心細そうな顔しないの。山本さんがいないと何も出来ないわけじゃないでしょう?」

「え。まさかぁ。敬ちゃんとはただの幼馴染みですし」

「そうなの? 山本さんて普段から物腰柔らかいけど、随分ふにゃふにゃだったから彼女なのかと思った」

「あー……生まれた時から一緒にいるようなものですし」

「生まれた時からってすごいわね」

「……兄みたいなものです」

言いながら、どこか緊張気味の伊原さんを見た。

目が合うと、微かに困ったようなはにかみが返ってくる。

「どうかしましたか?」

「あ。いえ。気にしないで? さっきはお花をありがとう」

「いえいえ。花束にしようかと思ったんですけど、匂いを嫌がる人もいますから、ブリザードフラワーにしたんです」

本当の理由としては、衛生的だから……だけど、それこそ言わぬが花ってものだと思う。
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