小路に咲いた小さな花
「それで、実際はどうなのよ」

ずいっと、水瀬さんの綺麗な顔が近づいてきてのけぞった。

「へ?」

「幼馴染みの“敬ちゃん”を、貴女は好きなの?」

「え。ぇええ?」

しょ、初対面の人にそれを聞くの?

「水瀬……」

呆れたような伊原さんに、止められた形で水瀬さんは肩を竦める。

「だって、可愛いじゃない? あんなに素直に“好きなの”オーラを発散する子はなかなかいないわよ」

え。

“好きなの”オーラ?

わた、私が?

「そ、そりゃ好きですよ! お、幼馴染みですし」

「まぁ、いいけどね」

いいなら聞かないで欲しい~。

やっぱり黒薔薇は正しいの?

トゲトゲ? 

やっぱり綺麗なものにはトゲトゲがあるの?

「それで、私たちはシャワー浴びてから磯村さんの部屋に行くけど、えーと……彩菜さんはどうする?」

「え。シャワーは遠慮しますけど。男性陣の中に一人は人見知りしちゃいますけど……」

「じゃ。貴女の顔で遊んでいい?」

「へ?」

顔で遊ぶ?

「せっかく若くてピチピチなのに素っぴんじゃないの。きっと、ちゃんとしたら男が放っておかないわよ」

「でも、お化粧ってしたことな……」

「綺麗になって、男を見返してやんなさい」

そう言った水瀬さんは堂々として、気品すら感じさせる。

感じさせる……けど、ふむ。

見返して……か。

そうだね。それもいいかもしれない。

お化粧にうるさい人は回りにいないし、うちは父子家庭だし、お手本になりそうな若い人は少ないし。

喜美ちゃんはオシャレにうるさいけれど、喜美ちゃんに聞いたらギャルメイクになるし。

さすがに、ギャルメイクをする年齢でも仕事でもないと言うか。

「水瀬さんみたいになれます?」

「顔の作りが違うんだから無理」

ああ、キッパリ言い切られた。

「自分自身に合うように、化粧の方法は変えるものよ。皆がやってるからメイクは10代の特権」

「自分に似合わないメイクは駄目ね」

伊原さんまでも加わりながら、じろじろ見られているうちにエレベーターがきた。

「絶対に化粧したら化けると思うのよね」

「ああ……それは思う」

乗り込みながら二人に首を傾げられて眉を潜めた。

「それにねぇ。自分の無頓着さは棚に上げて、彼氏出来ないんだ発言は許されないじゃない? 私、ああ言うのってイライラするのよね」

憤然として腕を組む黒薔薇に、ちょっとだけ吹き出した。

女子高時代にもなかった、女子だけの会話って感じ。
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