小路に咲いた小さな花
高校時代は今よりもっとプニプニだったし。

オシャレやお化粧の話をするグループにはいなかったし。

お店の手伝いもあったから、集まってどうこうってなかったしなぁ。

商店街には、お世話焼きの人も多いけど、こういう話にはならないし。

「変身できますかね~?」

エレベーターに乗りながら、半分以上お遊びに興味が出てきた。

「出来るわよ。だいたい、髪型が違うくらいで狼狽えるくらいなら、絶対に驚くわね」

敬ちゃんのことかな。

「水瀬。どれだけ遊ぶつもりなの」

静かに呟く伊原さんに、水瀬さんはニヤリと笑う。

「とことんよ。やるならとことん」

「彩菜さん。水瀬のこの女王気質に従わなくてもいいからね?」

きびきびした声には首を振る。

「いえ。楽しそうなので、遊んでもらいます」

やるならとことん。

何となく気に入った。

そうだね、やるなら中途半端は気持ち悪いし、そろそろ敬ちゃんを卒業しなくちゃ。

いつまでも初恋にしがみついていたって先が見えないんだし、先が見えない事ほど恐いものもないし。

もうすぐ25なんだし。

それに“井の中の蛙”でいられる期間なんて、そんなに長い間じゃないもの。

親父様だって……まぁ、あの人は長生きしそうだけど、いつまでも生きているってわけじゃないでしょう。

商店街の皆は放っておくような事はないだろうけれど、それは商店街の一員だからで……逆に言うとそれだけの話。

一人なんてきっと堪えられない。

花に囲まれていれば幸せだけど……

誰かと一緒にいたいと思うのは、また別の話。

そうすると、振り向いてもくれない敬ちゃんのそばにいてもね。

うん。

敬ちゃんだってイイ歳だし。

そのうち誰か見つけちゃうんだろうし……

敬ちゃんが幸せそうな近くで、一人なんて絶対に無理。

「綺麗になったら、彼氏ができるかなぁ」

「そこは努力よね。待っていたら王子様が迎えに来てくれるなんて、そうそううまい話はないわよ」

「水瀬はシビア過ぎるわよ」

「華子も人の事は言えないから」

「あ。ハナコさんて言うんですね、お花は好きです~」

「そっちの花じゃないわ。中華の華子よ」

どこかキリッと言われて、首を傾げる。

「中華の華でも、お花の花でも、彩り野菜よりはいいはずです~」

「……彩り」

「野菜……?」

同時に呟かれ、そして同時に吹き出された。

「ご、ごめんなさい」

「わ、笑っちゃった」

そうですよ。

彩り野菜で彩菜ですよ。

まさか親父様がその日に食べた、パプリカの炒めものからつけられた名前だとは公然の秘密ですよ。

パプリカ炒めってどうなのよ。

どれだけ適当な名前なのやら。
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