小路に咲いた小さな花
「まぁ、あんたの両親は楽しい人みたいね。私ははるか。平仮名ではるかだから……意味はどうなのかしらね?」

「平仮名なら色んな意味にできますよね」

遥か、春か、陽か、悠……でもいいかな。

漢字で固定してしまうと意味も固定するけど、平仮名なら創造的だものね。

「ああ。でもうちの親がそこまで考えてるかしらねぇ……」

はるかさんは呟いて、腕を組んだ。

「ところで、彩菜ちゃんのどこが人見知りなの?」

「私はサービス業ですから」

胸をはると、華子さんのクスクス笑いが聞こえてくる。

「営業職は二面性があるわよね。とてもよくわかる」

……磯村さんは営業部って聞いたような気もする。

「いろんな人がいますよねぇ」

しみじみ呟くと、はるかさんが指を振った。

「お互いに? 見せてる顔がすべてじゃないわよね」

そう言いながら華子さんの部屋について、さくっとシャワーに向かった華子さんに、私の顔をオモチャに楽しむはるかさん。

……男性陣も個性的だな、と、思っていたけど、女性陣もある意味個性的かもしれない。

「……女は化けるって本当ね」

シャワーを浴び終え、髪を乾かした華子さんが、まじまじと私の顔を見る。

「華子もたまには化粧くらいすればいいわよ」

「嫌。肌がかゆくなる」

「……それって、単に合わない化粧品を使ってるだけじゃなく?」

「化粧水くらいは使うわよ。この歳だもの」

いくつか知らないけれど。

「彩菜さんは、あまりのせない感じでちょうどいいわね。ナチュナルメイクでここまで印象かわるなら上出来よ」

どうなったんだろう。

「見てもいいですか?」

「どうぞどうぞ。私もシャワー浴びてくるから」

鏡を渡されて、覗き込んでみて瞬きをした。

うん。もとが普通の顔だから、いきなりの美女になるわけじゃないけど……

目が大きく見える。

唇がぷっくりに見える。

ほっぺたが健康そう……

お肌のキメは細かく見えるし、

「若返った……」

「……化粧すると、普通は大人びるものなんだけれどね」

華子さんに苦笑されて、苦笑を返す。

たぶん、あれだよね~。

私にはいわゆる女子力が足りないよね。

考えてみれば、実は水仕事も力仕事も多いお花屋さん。

冬は特に寒いから、ジーパンに厚底スニーカー。

商店街には最近高校生も増えたけど、年下の子の視線を意識したこともなく。

唯一意識するであろう、敬ちゃん兄弟は私を決して女扱いはしないし。

学校時代の友達も、女ばかりで……

いや。

私の意識の問題だね。

うん。

頑張ろうと思えば頑張れたはずのところを、手を抜いていたんだね。

そっか……女として意識されるはずはないよね。

でも……

私はよくても10人並の顔だし。

取り柄と言えば、よく笑うことくらいだし。

よく笑って、よく食べて、よく寝るくらいかも。

高学歴でもないし、計算は苦手だし、どちらかと言うと文系だし。

「……どうかした?」

キリッとしているけど、どことなく優しい声に顔を上げる。

「え……と。なんでもないですー」

微かに笑うと、訝しげな視線を返された。

「そう? なら、いいけれど。いいの?」

「はい。女は努力を怠ってはいけないと言うことがよく解りました」

「ん? え、と。それは私にもよく解らないけれど」

「え。未来の旦那様いるのに?」

「え、えーと。あの人は、少し変わっているから」

そよそよと泳いでいく視線。

磯村さん。

恐いだけじゃなくて、変わった人なんだ。
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