小路に咲いた小さな花
それからしばらくして、はるかさんがシャワーから出てきて、お化粧しているから様子を眺める。

「……ガン見されるとやりにくいわよ」

苦笑されながらも、はるかさんは怒っていない。

それを良いことにニッコリとする。

「減らないですから大丈夫ですよ」

「その言いぐさと……言うか、のんきさは、山本さんの幼馴染みだって再確認できる無頓着さね」

眉を潜めて首を傾げた。

「やっぱり仕事でも天然ですか」

「天然……ではあるだろうけれど、どこまでそのままか解らないわよ。企画室の人間は一筋縄じゃいかないから」

「いかないんですか?」

「そうねぇ。私はたまにしか行かないけど……企画室の事なら、華子の方が知っているんじゃない?」

華子さんはさっきからキッチンで何かを作っている。

ちらっと見たら、食品用のビニール手袋を身に付けて、テキパキ唐揚げを揚げていた。

……本格的に、衛生管理している。

「……企画室の人は、変わった人が多いわね」

「…………」

うん……敬ちゃんが変わり者なのは、よく知っています。

「山本さんは、いつも急いでいるイメージかしら。廊下から頼み事を言いながら総務部のドアを開けるから、肝心な用件が聞き取れない事が多いわ」

「ああ。よくありますね。最後の方しか聞き取れないから、何言ってるのか解らないんですよね~」

「でも、山本さんは評判良いわよ。ニコニコしながら、企画を通す頑固者って言われてるわね」

頑固者……は、初耳だわ。

「リーダーになる事も多いし、その他の事については社内の事だから言えないけれど、山本さんは仕事の“出来る”人よ?」

「そうなんですねー」

何だかそういうの、

「全く想像つかなくて」

「いつもあんな感じで?」

「はい。いつもって言っても、毎日会うわけじゃないですけど」

「そうね。企画室は残業も多いし」

華子さんは肩を竦めて、出来上がった唐揚げをオードブル皿に乗せていく。

「毎回作って持っていくのは大変じゃない?」

お化粧終わったはるかさんが立ち上がり、それからキッチンに向かう。

「さっさと一緒に住めばいいじゃないの」

「まだ親に挨拶も行ってないからダメって言われたの」

「誰に?」

「磯村さん」

「……そういうところだけチャッカリ誠実な男も苦手」

「最近の水瀬は、片っ端から男が苦手じゃないの」

「しばらくはいいのよ。しばらくは」

「水瀬……人の事は散々言っていたくせして」

華子さんに睨まれても笑って流している。

それを眺めながら、私も立ち上がった。

立ち上がった瞬間、インターホンが部屋に響いて磯村さんが入ってきた。
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