小路に咲いた小さな花
「運び屋に来た」

「え。また磯村さんだけ?」

眉を潜めたはるかさんに、磯村さんが不機嫌そうな顔をする。

「なんで自分の女の部屋に、他の男をあげなきゃならねぇんだよ」

「うわ。その独占欲引くわー」

「そもそも、他の輩が部屋に入ってきたら、華子が……」

ふっと磯村さんと目があって、目を丸くされた。

「おー……。また随分と可愛らしくなったな」

「何イキナリ口説いてるのよ」

華子さんに睨まれ、磯村さんがニヤリと笑う。

「嫉妬か? 受けて立つぞ?」

「受けて立たなくていいから。バカなこと言ってないで運んでちょうだい」

ずっしり重そうな土鍋を渡して、華子さんは私を振り返った。

「彩菜ちゃん、そこのサラダボウル運んで頂いてもいいかしら?」

「はい。運ばせて頂きます!」

それぞれ出来上がったお料理を持ち、移動した先はお隣りさんだった。

磯村さんがドアを開けてくれて、奥から微かにテレビの音が聞こえる。

「どうぞ?」

「お邪魔しまーす……」

思えば、敬ちゃんの部屋以外に、男の人の部屋って入った事がない。

恐る恐るお邪魔して、キッチンにサラダボウルを置くと辺りを見回す。

……何だか。

華子さんの部屋を、そのまをんま逆転したみたいな部屋だ。

間取りは逆転しているのは、マンションの造りだからともかくとして……

二人掛けのソファーにガラス制のローテーブル。

ビデオラックに、大きなテレビ。

クッションがフローリングの床に転がり、葛西さんがそこに座っている。

華子さんの部屋よりは、色の使い方がシックで、男の人が選びそうな色合いではあるけれど……

気が合うんだろうなぁ。

部屋まで似たような人って珍しい。

部屋って個性がでそうなものなのに、敬ちゃんの部屋なんて……

物心ついた時には、写真と写真の機材だらけだったよね。

キッチンの片隅に、プラスチックケース入りのブリザードフラワーを見つけて思わず微笑む。

何だかやっぱり“可愛い”は少し二人のイメージと違うかな。

今度作り直そう。

そう思って顔を上げたら、変な顔をしている敬ちゃんと目があった。

「彩菜。化粧したの?」

「うん。はるかさんにしてもらったのー」

「何か彩菜みたいじゃなくてヤダー」

「…………」

私もそんな口調の30代男はヤダー。

「なぁに。私のセンスに文句があるわけ? 山本さん」

後ろからはるかさんの声が聞こえてきて、敬ちゃんの視線が後ろに向かう。

「彩菜は素っぴんでも十分だよ」

「化粧は女の身だしなみよ」

「まだ早いよ」

「貴方、彼女いくつだと思っているのよ」

本当……いくつだと思っているんだろう。

敬ちゃんの中では、まだまだ小さい女の子なのかな。

思いきっりアウトじゃないか。

「いいから初めようや? 俺は腹減ったし。女が綺麗になるのは喜ぶことじゃねぇの?」

「喜べない。なんか変」

「…………」

敬ちゃんの事だから、また思い付くままに言っているんだろう。

だろうけれど……

イラッとするよね?

「いいよ。敬ちゃんに変って言われても。他の人に綺麗って思われればいいだけだし」
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