小路に咲いた小さな花
敬ちゃんなんて、私をただの幼馴染みしか見てないじゃない。

だったら、いつまで想っていても不毛でしょう?

選択肢なんていくつもある。

敬ちゃんを好きなままでいるか、敬ちゃんを諦めて他の人を好きになるか。

幼馴染みって、確かにぬるま湯の関係だよね。

家族みたいな関係で、決して家族じゃない関係。

家族みたいな関係を脱出するのって、ちょっとだけ難しい。

脱出したら、家族みたいな関係はなくなってしまうだろうし、それも恐いし……

恐がってばかりじゃ何も始まりはしないだろうけれど。

だけど、そもそもアウト・オブ・眼中って感じでしょう?

敬ちゃんにしてみれば、私は保護するような“小さな女の子”で、恋愛の対象外でしょう?

だって外の世界には“大人”で、“綺麗”な、女の人がたくさんいるもの。

敬ちゃんだって、綺麗な女の人が好きなの知ってるし。

敬ちゃんが中学の頃、付き合っていたお姉さんは近所でも有名な可愛い人で、読者モデルになるくらいな女の子だったし。

高校で付き合っていたお姉さん達も、スマートで綺麗な人達だった。

大学生時代には、付き合っていた女の人だって、キラキラ綺麗な人達で……

今だって、綺麗な女の人はたくさんいるし……さ?

クピクピと缶チューハイを飲んでいたら、磯村さんと華子さんが黙って見ているのに気がついた。

「何か……?」

「あんた、自分が女の自覚があまりねぇのな?」

「…………?」

「何を言ってるのさ。彩菜はどこどう見ても女の子でしょうが」

何故か敬ちゃんが磯村さんを睨んで、苦笑を返されている。

「半分以上はお前のせいだな。正確には女の子と女じゃ、いろいろと違うぞ?」

「えー……」

「ま。お前がそれでも構わねぇって言うんならそれでいいけど……」

ちょいちょい呼ばれて、敬ちゃんと磯村さんで何やら話始めた。

何だか解らないけど、まぁ、いいや。

「とりあえず、飲もうか彩菜ちゃん」

はるなさんがピンクの缶をくれて、乾杯する。

「あ。これ甘くておいしい」

「甘いものは好き?」

「はい。あ、桃のカクテルなんだ」

「どれだけ飲めるの?」

「あ。それは解りません」

飲みに出たことはないし。

家で飲むこともないし。

親父様にビールを飲まされた時は、たまたまお正月だったから。

それ以来は飲んだことないよね。

ああ、本当に……考えてみれば考えるほど、井の中の蛙で箱入り娘なんだ。

商店街から出たこともほとんどなく、商店街で完結してる。

だめだめだ。

それじゃ、絶対にだめだめだ。

「今日は飲んじゃっていいでしょうかね?」

「いいわよー。ここに医者がいるから、思う存分飲みなさいよ」

「あ、そういえば、はるかさんはお医者様でしたか」

「そうそう。だから気にせずじゃんじゃん飲みなさい」

「水瀬さん。若い人をけしかけるのはいかがでしょうか……」

葛西さんがやんわりと止めに入ったけれど、そんな彼をはるかさんはニヤリと笑って片手を振る。

「失敗は若いうちの特権でしょ。それに失敗しても、今日なら安心できるじゃないの」

「……実は、そこにある意味、問題があるような気がするのですが」

ニヤリと笑ったままのはるかさんと、困ったような葛西さん。

よく解らないけど、飲んじゃうもんね。

お酒って、にがいだけじゃないの解ったし。

甘いお酒ならいくらでも飲めそうな気がする。

そんな感じで飲んでいて……
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