小路に咲いた小さな花
3
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お花屋さんの朝は結構早い。

仕入れた花を選別して箱から取り出して、水切りして、バケツに入れて、彩りと見た目を考えながらお店に並べて……

並べ終わると、親父様はどこかに雲隠れ。

むせ変えるような緑の匂いをまといながらシャッターを開けると、

「おはよう」

通りかがりのコート姿の敬ちゃんを見つける。

「おはよー」

いつもの雰囲気の敬ちゃんがそこにいて、少しほっとした。

「髪に葉っぱついてる、彩菜」

「え。どこ?」

「ここ……」

敬ちゃんの指先がこめかみ触れ、ついていたらしい小さな葉っぱをつまみ上げる。

「ありがとうー」

敬ちゃんが指先で取ってくれた葉っぱを眺めていたら、そのこめかみに暖かくて柔らかい感触。

それから微かに柑橘系の匂いに混じって、クスッと小さな笑い声。

「いってきます。今日は遅いと思う」

「い、いってらっしゃい……」

何故に帰宅時間を私に?

と、言うか、今の何?

駅に向かう敬ちゃんの後ろ姿を見送っていたら、

「彩菜さん! 山本さんと付き合い始めたの?」

喜美ちゃんが顔を真っ赤にして立っていた。

「え。いや、あの」

「だって、今、山本さんチューしてたよ、チュー」

やっぱりそう?

こめかみにキスされた?

間違いない?

ぼんやりしていたら、喜美ちゃんに店に連れ込まれた。

「飲み会で何かがあったんですね? そうでしょ、そうなんでしょ?」

何故か大興奮の喜美ちゃんに、どこか冷静になる。

人は不思議と、興奮している人を見ると冷静になれるのかもしれない。

「もー。それならそうと言ってくださいよー。バイト時間増やしますから」

「え。待って、意味が解らないけど」

「付き合い始めたなら、デートもするんでしょ?」

当然のように言っているけど、解らない。

だいたい、私たち……私たちと言っていいのかも悩むけど、そもそも付き合い始めたの?
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