小路に咲いた小さな花
炒飯くらいなら簡単だし、どうってことはないよ。

スープはインスタントでもいいかな。

確か、敬ちゃんは胡麻油も好きだったよね。

乾燥ワカメに、お塩と少しの鶏ガラの粉末と、ちょこっと胡麻油。

「はい。出来たよ」

テーブルの前に座る敬ちゃんに、出来立て炒飯と、手抜きの中華スープを出すと微かに苦笑される。

「彩菜のそういうとこ、好きだよ」

……そういう“好き”は聞きなれてる。

目を細めて睨んでから、肩を竦めた。

「だめじゃない。お昼も食べないの」

「うん。まぁ……ちょっとね」

「お箸とレンゲとどっちがいい?」

「あ。レンゲがいいな」

レンゲを渡すと、敬ちゃんの前に座った。

「仕事もいいけど、身体壊すよ」

「あ……まぁ、仕事も今はちょっと新人入ったばかりで大変だけど、早く帰りたかったから」

「そうなの……」

「彩菜は大変だった?」

「そうでもないよ。午後から暇だったし」

「うちのお袋飛び込んで来なかった?」

「…………」

「ああ。やっぱり来たか」

溜め息混じりに呟いて、敬ちゃんはもくもくと炒飯を食べている。

「ママさん来るって……予想してたの?」

「まぁね。確かめに行くだろうな、くらいは思ったかな」

「……喜美ちゃんには、朝の出来事見られて詰め寄られたし。朝はバタバタしてたよ」

「うん。走ってくるの見えてたし」

「見えてたのにあんな……っ」

こめかみにとはいえ、キスとかしたわけですか!

「うん。考えてみたら、彩菜っていい感じに育ったよね」

敬ちゃんのボキャブラリーには前からついていけない部分があったけど、それはどういう意味。

「俺、派手な女の人は苦手だし」

過去の彼女を見る限り、派手とまではいかなくても、かなり華やかな人だったよね?

「それに、さわり心地も好み」

さ、さわり心地とか……

「え、エロい」

「俺は男だもん。と言うかね、彩菜」

「うん?」

「だからどうかと思うよ? 父親いない自宅で、男に食事出すとか」

だ……だって、こんなことは今までにもあったじゃないか。

「いちからって難しいかもしれないけどね、そこは自覚した方がいい。さっきだってそうだけど、力じゃ男に敵わないんだから」

「う……」

「ほとんどは俺が悪いか」

なんで?

どうして敬ちゃんが悪くなるの?

「井ノ原さんはああだし、彩菜はしっかりしてそうで抜けてるし、俺がしっかり教えてあげなくちゃいけなかったんだよね」

どうしてそうなるの?
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