小路に咲いた小さな花
考えていたら、小さく笑われた。

「そもそも、彩菜って平気で俺の部屋に来るでしょ」

うん。どちらかって言うと、小さな頃から出入りしているし、用事があればママさんも通してくれるから……

「たぶん、今後はお袋に止められるだろうけど」

「そう……なの?」

「部屋なんて密室だよ? 何されても文句言えないよ?」

「…………」

そ、そうかも知れないけど……

ニコニコ言われても、何だか危機感はないけれど。

「彩菜みたいにウブで、そこそこ大人の女の人が、部屋に無防備に入ってきたら、いただきますって感じでしょ」

すみません。思いっきり危険でした。

い、いただきますって……

私、いただかれちゃうの?

今、危険? 今まさに危険?

それって満面の笑みでいうことじゃない───────!

「そんな感じで、彩菜は女の自覚がないらしい」

らしい?

「磯村に言われた。なんかムカツク」

ムカついてるらしいけど、ニコニコの敬ちゃんが薄ら寒い。

そうか。

敬ちゃんて、怒っていても笑顔なんだ。

新発見。

「この商店街も特殊だからなぁ。俺たちも兄妹みたいに育ってきたし」

「…………」

そうだね。

ちょっと年の離れた兄妹みたいに育ったね。

あの頃はマンションも少なくて、商店街で遊ぶ子供は少なかった。

敬ちゃんの兄ちゃんは、物心つく頃には大人だったし、遊びの中心は敬ちゃんと私だけ。

「……せめて小学生の頃くらい、男の子と遊ばせるべきだったかなぁ」

ん?

「中学くらいになったら、自然と異性の視線くらい気にするようになるんだけどね」

「えーと……なんだろ。遊ばせるとか、どういう意味だろ?」

「……気づいてないのが彩菜だよね」

何が……と、考えて気がついた。

「もしかして、私の友達悪い虫扱いされたの!?」

「うん。したの」

「ひどい! どーしてそういう事するわけ。そんなに変な子はいなかったじゃない」

「あの頃は俺も子供だし……」

言いかけて、首を傾げられる。

「いやー……そうか。そういう事か」

「勝手に納得しない! 敬ちゃんって勝手に納得するんだから!」

「うーん。とにかく、付き合おう」

「どーしてそんな結論になるの!」

「え? だって好きだよね?」

「私だけ好きでも、付き合うことにはならない!」

「大丈夫。俺も好きだから」

「誠意が感じられない!」

「え。誠意って言われても」

「だって、何だか軽いんだも……」

「ふーん?」

「…………」

冷たい視線に黙り込んだ。
< 26 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop