小路に咲いた小さな花
「彩菜さん。今度合コンしましょうよ。合コン」

「えー? 行ったことないし、遠慮しておくー」

「このまま花に埋もれて生きていくつもりですか!? この寂れてるのか活気づいてるのか解らない、奇妙な商店街で一生涯を費やすつもりですか?」

「……あれー。喜美ちゃん熱いね」

「彩菜さんがぬるま湯過ぎるんです!」

って、言われてもなぁ。

商店街で育っているし、この商店街24年育ててもらったようなものだし。

花に埋もれて……。

どうせなら、白かピンクの花に埋もれたいなぁ。

「いやだ。何だかメルヘン」

笑ったら、やっぱり喜美ちゃんに脱力された。





……そんな何気ない会話があったから、お店を閉めて、いつもの定食屋さんで夕飯にしていた時、敬ちゃんを見つけて相談してみた。

「合コン?」

「うん。何だか喜美ちゃんがセッティングしてくれるらしい~」

「え。高校生の合コンに、彩菜が参加するの?」

「ううん。遠慮したの」

「あ、そうなんだ。そうだよね」

何が“そうだよね”なのかは解らないけれど、敬ちゃんなりに納得したのは解る。

いつも勝手に納得するのは、敬ちゃんの悪いところだ。

「彩菜。どうせ合コンするなら、大人な合コンにしようよ」

定食の鯖味噌を食べながら、敬ちゃんが小さく首を傾げる。

「最近、ツレに彼女と彼女じゃない人が出来て、俺だけ余されてつまんないんだよね」

「んん?」

肉じゃがを食べながら、眉を寄せると考える。

彼女……は、ともかく、彼女じゃない人が出来て?

「意味が解らないよ?」

「ああ。えっと……彼女と、好きな人?」

「…………」

つねづね思うけど、敬ちゃんのボキャブラリーはおかしいと思うんだ。

それで説明しているつもりなんだろうか?

「えーと。一人に結婚前提の彼女が出来て、もう一人がその彼女の友達を好きになってて、飲み会になると余されてる」

「ああ! 解った! それはお邪魔虫になってるねえ!」

「やんわり言ってても、結構ひどいこと言ってるからね、彩菜」

微かに冷たい視線が返ってきて、そっと壁紙を眺める。

「ああ。えっとごめん」

「慣れてる。で、どう?」

どうって言われてもなぁ。

それって合コンでもなんでもないような気がする。

「知らない人と飲むって事は、知らない人と話すって事だし。井の中の蛙より一歩前進でしょ」

「ん~。まぁ。そうだけど、私はカエルじゃないなぁ」

そういう意味で言っていないのは百も承知で呟くと、敬ちゃんは指先を振った。

「それに彩菜は確かに箱入り娘だから、いきなり合コンは心配」

「え。私は箱入り娘なの?」

箱入り娘って、大事に大事に育てられたお嬢様なイメージだけど。

大事にしまわれて、ピカピカの箱に入れられて、リボンでラッピングされて……

箱入り娘は、誰にプレゼントされちゃうんだろう。
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