小路に咲いた小さな花
「よく恥ずかしげもなく、娘に言うよね」

「恥ずかしがる歳は過ぎたよ。それに本人はいないしな」

楽しそうに呟いて、私の手元を眺めた。

「ブーケか?」

「あ。ううん。敬ちゃんの友達さんの婚約祝いにいった時、渡したブリザードフラワーがイメージと違って」

「随分かっこいい感じに作るんだな」

「ん~。凛とした感じに作りたいんだけど。花がカラーってイメージなんだよね」

「アクセントにアンティークローズでも使えばいい。カラーだけだと面白味がなくなるぞ」

「ああ、でも、ブリザードにするから……」

「ブリザードにするなら、バラの色に少し青みを入れれば多少はクールになるだろう」

「親父様。けっこう色見気にするよね」

「……まぁな」

言っている間に、お客様がきて親父様が対応しにいった。

それをぼんやり眺めながらミニブーケの束をいくつか作る。

夕飯かぁ。

まずは敬ちゃんに連絡かな。

忘れる前に連絡しておこう。

スマホを取り出して、メールを打ち込んでいたら、酒屋さんの和弘君が店を覗いていた。

おいでおいでしてみたら、どことなくこそこそと入ってくる。

「彩菜さん。ちょっと相談していい?」

「ん? 何の相談?」

「実はさ、高校の卒業式の時に、担任に花送ろうって話になってさ」

卒業式?

「今、冬休みだよね?」

「冬休み終わったら、すぐ卒業式じゃん。クラスから金集めないとだし、いくらくらいが相場か聞きたいんだよね」

あ、なるほどなるほど。

「先生は女の人?」

「うん。えーと、38歳の英語教師」

「かわいい感じがいい? 華やかな感じがいい?」

和弘君は難しい顔をして、それから人差し指をくるくるする。

「クールで華やかな感じ」

クールで華やかな……か。

「クラスメートって何人?」

「え。男子と女子合わせて43人」

「それなら一人100円集めたら、結構豪華な花束作れるよ~」

「マジ? OK。サンキュ彩菜さん」

満面の笑みを見せながら帰っていく高校男子を見送って、もうそんな時期になるんだな、なんて考える。

花屋さんは一年中常春だからなぁ。

もう、曜日は覚えていても、日にちは忘れるって言うか。

お客様の応対をしていた親父様が戻ってきて、花束を作り始めた。

真面目に働いていたら、そこそこかっこいいのに。
< 30 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop