小路に咲いた小さな花
「彩菜ちゃん。今日は買い出しかい?」

まっさんの声に振り返り、並べられた魚を見る。

「煮付けにいいお魚あります?」

「今の時期だと鰈がおすすめだね。今日は井ノ原さん見てないけど、店にいるのかい?」

ニコニコしながら、ふくふくとしたまっさんの笑顔を眺める。

「うん。店番してる。じゃ、鰈を3尾下さい」

「3? 2じゃなくてかい?」

「あー……うん。まぁ、3?」

驚くまっさんに、微妙な返事の私。

「えーと。敬ちゃんと親父様が、晩酌するの」

そっと視線は泳いでみるけど、店先で遠慮容赦のないまっさんの大きな声。

「敬ちゃんて、古本屋の敬介か?」

「う……うん」

「なんでまた……」

スパンといい音がして、まっさんが頭を押さえ、後ろからおばさんが顔を出す。

「気が利かない人でごめんね」

テキパキ鰈を包んでくれて、痛がるまっさんを横目で見ながらお代を払う。

「ありがとう」

「ついでにオマケ入れとくわね」

何かのパックを入れてくれて、おばさんはにんまり笑った。

「今日は3人でご飯?」

「親父様が敬ちゃん呼べって」

「ああ。いのちゃんは敬介がお気に入りだからねぇ」

へえ。

それは知らなかった。

お礼を言って、次に八百屋さんに顔を出すと、今度はどこか訳知り顔のおじさんにからかわれながらオクラと大根を購入。

それから肉屋さんの前を通ったら唐揚げをもらい、薬局の前を通ると、紙袋入りの何かを手渡され。

稲荷揚げを買っていたら、通りかかった一団にニッコリ微笑まれ。

惣菜屋さんでエビチリと、イカの酢味噌あえを勧められるままに買って。

衣料品屋さんでも、何か箱を押しつけられ……

「あー。なんなのもう」

酒屋さんの自動ドアを入りながら呟くと、和弘君が漫画から顔を上げた。

「さっきはどうも」

「あれ。店番?」

「まぁ、冬休みだし」

「未成年がお酒売っていいの?」

「さぁ?」

まぁ、家の稼業だからなんとも言えないけど。

「でも、和弘君ならからかわないからいいか」

「からかってもいいけど、後で知られると面倒だからしない。ビールでいいの?」

「ううん。日本酒がいい」

和弘君は両手に荷物を持った私と、それから棚に並んだ地酒の瓶を見て立ち上がる。

「配達しよっか?」

「……そうだね。お気遣いありがとう」

「どの酒がいい?」

「お酒は解らないからなぁ。熱燗にしたいって親父様が言ってたから、よさそうなの見繕って」

「後で母さんに聞いて、持っていくよ」

「ありがとう」

そんな感じで配達を頼んで、店に戻った。

何だか色々あったけど、何だか楽しい。

久し振りに皆でご飯。

その後は、どことなくワクワクしながら、店番をある程度で親父様に任せて夕飯準備。
< 32 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop