小路に咲いた小さな花
そうこうしているうちに時間は過ぎていって、

「ずいぶん、豪華な夕飯だね」

招き入れた敬ちゃんが、目を丸くしながら並べられた料理を見た。

「なんか、つい……?」

「ヒラメの刺身か。うまそうだ」

片手をあげるだけで敬ちゃんに挨拶した親父様が、エプロンを外しながらニヤニヤしてる。

「あ。それは鮮魚のおばさんがオマケにくれたの」

「ほーう?」

「ふーん?」

「…………」

なに、二人して。

「良かったな敬介」

「そうだね。母さんに協力拒まれたから、時間かかるとは思ってたけど」

「何。どういうこと?」

「ん? お陰さまで商店街の噂から公認的な感じになったかなぁ……て」

「……今までも、ちょこまか直接聞きに来られてたわよ」

テーブルの前に座った敬ちゃんが、瞬きをしながら私の顔を覗き込む。

「彩菜、何も言ってこなかったじゃない」

「言ってもしょうがないかと思って」

きっと敬ちゃんは計画魔だ。

思えば、小さな頃からそんな感じだった気がする。

「それなのにあの反応? うわ。案外手強い」

「言っておくけどね、敬ちゃん。お付き合いとかそうじゃないとか、回りから何を言われようが何されようが、お互いの問題でしょ」

ご飯をよそってガツンと置くと、親父様がお腹を抱えて笑っているのが見えた。

「うん。敬介が悪い。彩菜は甘くないからな」

「あー……そう。そんなとこだけ、しっかりしてなくてもいいのに」

「まぁ、飲め。敬介も爪が甘いんだよ。育ての親はお前の母親なんだからな」

親父様は敬ちゃんにぐい飲みを渡すと、徳利からお酒を注いだ。

「え。俺が先?」

「俺はそんなに強くないからなぁ」

「それなのに熱燗にしたのかよ」

「まあ、細かいことは気にするな」

「いや、社会人してたら気になるから」

苦笑しつつ、敬ちゃんが親父様のぐい飲みにお酒を注ぎ返した。

「敬介も大人になったもんだな」

「俺をいくつだと思ってるのさ」

「いや、オレらの年代からするとまだまだガキだよ。なんせ、生まれた頃から知ってるんだから」

「あー……そうだね。そうなるか」

お互いに乾杯して、私はお茶を飲みながら、敬ちゃんと親父様の会話を聞きながらご飯にする。

「仕事はどうだ? 面白いか」

「まだまだかな。上には上がいるし、俺なんかは井ノ原さんが言うようにまだまだだよ」

「そんなもんでいいんだよ。満足すると、そこで成長は止まるからな」

男の人同士の会話って、はじめて聞くけど……不思議な感じ。

てか、親父様が語ってるよ。

不思議過ぎる……。

ぽけっとしていたら、敬ちゃんが手元に転がっていた紙袋に気がついた。

「薬局? なに買ったの」

「薬局のおばさんがくれた」

「試供品かな。開けてもいい?」

「いいよー」

ガサゴソと敬ちゃんが中身を取り出して、親父様が盛大に吹き出した。
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