小路に咲いた小さな花
5
*****
翌朝、家を出た瞬間に言われた言葉。
「彩菜。どうしちゃったの」
それはどういう意味だろうか。
視線の先を見ながら、眉をしかめる。
たぶん真っ先に見たのは、巻いていないけど下ろしたままの髪。
それから見たのは、セーターにシフォン素材のスカート。
それにロングブーツを合わせてみた。
コートだって今日は喜美ちゃんに借りて、ふわふわと可愛いポンチョ風コートよ。
頭が“どうしちゃったの?”って意味なら、喜んで着替えてくるわよ!
だってデートだもん!
デートって言ったのは敬ちゃんじゃないか!
デートならおしゃれくらいするもん!
それくらい考えるもん。
「あ。えーと、ごめん。怖い顔は似合わない」
「怖い顔させてるのはどっち?」
「うん。だからごめん。デート……意識してくれるとは、ちょっと思ってなかったから、つい」
まぁ、それが敬ちゃんだよね。
「いいよ。慣れてるから」
「あー……ごめんって。こういうとこがダメだってことは、重々承知してるから」
……珍しい。真顔で謝ってきてる。
今までなら、笑って“ごめん”って言われて、しょうがないねって言って、それで終わりだよね。
不思議そうにしてみたら、敬ちゃんはちょっと嬉しそうに笑った。
「自分で意識しろって言っといて、いざとなると……やっぱり嬉しかったもんで」
「…………」
嬉しかった……んだ。
嬉しかった……から、もしかして、今のは照れたわけ?
照れて……からかわれた?
敬ちゃんも、照れるわけ?
な、なんか、嬉しい……けど、
「敬ちゃん。実は解りにくい人だったんだね……」
「え。うん。解りやすいって言われるより嬉しいけど複雑」
本当に複雑そうな顔をされて吹き出した。
うん。
まぁ、新しい敬ちゃんには慣れていないけど、敬ちゃんが丸っきり変わった訳じゃないのは解ったかな。
「よし。敬ちゃん、腕を組もう」
「……腕組もうって、宣言してからするもの?」
「しない?」
「いや。解らない。今まで言われたことがない」
そう?
「中学時代、彼女と腕組んで商店街歩いてたじゃん」
「それは……」
言いかけて、敬ちゃんは驚いたような顔をした。
「彩菜。ちょっと……」
「ダメなの?」
「ダメじゃない……けど。どうしたのって、これは真面目に聞いていい?」
「ん?」
「昨日と全然違うから、さすがに俺も困る」
「昨日は、親父様が敬ちゃんとご飯食べたいって事だったけど、今日はデートでしょう?」
今さら違うとは言わせないから。
「……うん。デート」
「なら、やるならとことんよ。どーせ商店街の皆には、よくわからないけどお祝いしてもらったし。あんなものまでもらったんだし」
明るい家族計画の箱は、親父様が面白がって朝から薬局に返しに行ったけどね。
衣料品店のおばちゃんからのはやっぱり下着的な……
あのサラサラ素材の、色は可愛いピンクのミニネグリジェ風味な下着は、なんて呼ぶんだろう?
ミニ過ぎて、屈んだらおしり丸見えだな……って思ったら、ちゃんと穿くのも箱に入っていた。
確か、ベビーなんちゃら。
おばちゃんは、可愛い感じで選んでくれていた。
家に鍵をかけて、ポンチョを被ると、クスクス敬ちゃんが手を差し出してくる。
「ん?」
「腕組より先に手繋ぎ」
「えー……」
「急ぐことはないでしょ? 今日だってまだ朝だし」
そうだけどね。
手を繋いだら、
「違う違う。こうだよ」
指と指を絡ませて、きゅっと握られた手。
「…………」
困った。
これはこれで、とっても照れる。
翌朝、家を出た瞬間に言われた言葉。
「彩菜。どうしちゃったの」
それはどういう意味だろうか。
視線の先を見ながら、眉をしかめる。
たぶん真っ先に見たのは、巻いていないけど下ろしたままの髪。
それから見たのは、セーターにシフォン素材のスカート。
それにロングブーツを合わせてみた。
コートだって今日は喜美ちゃんに借りて、ふわふわと可愛いポンチョ風コートよ。
頭が“どうしちゃったの?”って意味なら、喜んで着替えてくるわよ!
だってデートだもん!
デートって言ったのは敬ちゃんじゃないか!
デートならおしゃれくらいするもん!
それくらい考えるもん。
「あ。えーと、ごめん。怖い顔は似合わない」
「怖い顔させてるのはどっち?」
「うん。だからごめん。デート……意識してくれるとは、ちょっと思ってなかったから、つい」
まぁ、それが敬ちゃんだよね。
「いいよ。慣れてるから」
「あー……ごめんって。こういうとこがダメだってことは、重々承知してるから」
……珍しい。真顔で謝ってきてる。
今までなら、笑って“ごめん”って言われて、しょうがないねって言って、それで終わりだよね。
不思議そうにしてみたら、敬ちゃんはちょっと嬉しそうに笑った。
「自分で意識しろって言っといて、いざとなると……やっぱり嬉しかったもんで」
「…………」
嬉しかった……んだ。
嬉しかった……から、もしかして、今のは照れたわけ?
照れて……からかわれた?
敬ちゃんも、照れるわけ?
な、なんか、嬉しい……けど、
「敬ちゃん。実は解りにくい人だったんだね……」
「え。うん。解りやすいって言われるより嬉しいけど複雑」
本当に複雑そうな顔をされて吹き出した。
うん。
まぁ、新しい敬ちゃんには慣れていないけど、敬ちゃんが丸っきり変わった訳じゃないのは解ったかな。
「よし。敬ちゃん、腕を組もう」
「……腕組もうって、宣言してからするもの?」
「しない?」
「いや。解らない。今まで言われたことがない」
そう?
「中学時代、彼女と腕組んで商店街歩いてたじゃん」
「それは……」
言いかけて、敬ちゃんは驚いたような顔をした。
「彩菜。ちょっと……」
「ダメなの?」
「ダメじゃない……けど。どうしたのって、これは真面目に聞いていい?」
「ん?」
「昨日と全然違うから、さすがに俺も困る」
「昨日は、親父様が敬ちゃんとご飯食べたいって事だったけど、今日はデートでしょう?」
今さら違うとは言わせないから。
「……うん。デート」
「なら、やるならとことんよ。どーせ商店街の皆には、よくわからないけどお祝いしてもらったし。あんなものまでもらったんだし」
明るい家族計画の箱は、親父様が面白がって朝から薬局に返しに行ったけどね。
衣料品店のおばちゃんからのはやっぱり下着的な……
あのサラサラ素材の、色は可愛いピンクのミニネグリジェ風味な下着は、なんて呼ぶんだろう?
ミニ過ぎて、屈んだらおしり丸見えだな……って思ったら、ちゃんと穿くのも箱に入っていた。
確か、ベビーなんちゃら。
おばちゃんは、可愛い感じで選んでくれていた。
家に鍵をかけて、ポンチョを被ると、クスクス敬ちゃんが手を差し出してくる。
「ん?」
「腕組より先に手繋ぎ」
「えー……」
「急ぐことはないでしょ? 今日だってまだ朝だし」
そうだけどね。
手を繋いだら、
「違う違う。こうだよ」
指と指を絡ませて、きゅっと握られた手。
「…………」
困った。
これはこれで、とっても照れる。