小路に咲いた小さな花
見られないけど、隣から聞こえるクスクス笑い。

……意地悪だ。

でも、慌てて離してしまうのも……

何だかもったいない気がするし。

照れるけど手は繋いだままで、まだ人通りが少ない商店街を歩く。

だけど、朝からしっかり開店してるお店も……

「あれ。彩菜ちゃんに敬介。こんな朝っぱらから二人でどこに行くんだい?」

まっさんの声に敬ちゃんが立ち止まり、奥からおばちゃんが顔を出す。

「あら、二人でデート?」

「そうだよ」

「あら……まぁ」

何となくポカンとする二人に頭を下げて、そのまま歩き出した。

そうだよ……だって。

そうだよ……

「敬ちゃん……」

「うん?」

「恥ずかしくて悶えそう」

「それは、言葉にするのはどうだろう?」

「だ……って、は、恥ずかし……」

「腕組よりよかったでしょ?」

「う、うん」

「まぁ、どうせなら、他の事で悶えて欲しいけど」

「え、えーと?」

「意味は解る?」

……それには答えないでおこう。

たまにサラッと爆弾発言されても、困るのは私だから。

きっと確実に困る。

と言うか、意味深に突っ込まないで欲しいけど。

通りすがりに挨拶をかわす人、一瞬だけ繋いだ手に視線を向けて、呆れるやら冷やかされるやら。

そんな中で、古本屋のママさんが店の前で腕組みしていた。

「敬介!」

「なに?」

「あまり彩菜ちゃんいじめるんじゃないわよ?」

「えー……今日は俺の方がいじめられそうだけど」

「はぁ!?」

思わず声をあげたら、ママさんに笑われた。

「ま。いってらっしゃい。気を付けて帰ってくるのよ」

ヒラヒラと手を振りながら、シャッターを開けているママさん。

それを横目で見ながら、敬ちゃんは困った顔で歩き始めた。

「……しっかり釘刺されたか」

「え? 何が?」

「気を付けて“帰って”来いって。泊まり止められたね」

いや。ニッコリ何を言ってるのかな。

これって初デートですよね?

間違いなく初デート。

「お泊まりは言語道断だけど……それ、深読みしすぎじゃないかな」

「何言ってんの。うちの母親だよ?」

どういう家族ですか、あなたたち。

まぁ、ママさんは敬ちゃん兄弟には厳しくて、私には甘かったからなぁ。

実際に表も裏もある人もいるし……

「人間って、いろんな面があるよね」

「いきなり人間語り出す彩菜もね」

「いきなりでもないよ。敬ちゃん見て裏表あるんだな……と、思って」

「……裏表って言うか、近所の兄ちゃんか、男かの違いじゃない? 俺が彩菜に男として接したのって、3年前だけだし」

「……3年前」

「次の日から、彩菜は普通に近所の幼馴染みしてくるから戻したけど」

「……近所の幼馴染みと、男性と、接し方が違うの?」

「俺は違うかな」

そうなんだ。
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