小路に咲いた小さな花
「知り合いは当たり障りなく他人だし、幼馴染みは単によく知ってる他人でしょ?」

「うん?」

そうだね。

幼馴染みは、ただの知り合いよりは知っていて……

家族ぐるみで勝手も知ってる、けれど、あかの他人だよね。

「確かに好きな子には優しくするけど、自分のモノにしようとする女性が相手の時には、やっぱりそれ相応の態度になるから」

知らないよ、そんなの!

「ちなみに、今は半々ってところだな」

「え?」

顔を上げたら、どこか呆れたような視線と一瞬だけ目が合った。

「いきなり変えてみたら、彩菜引いたみたいだし」

……それは、あれかな。

華子さん達の婚約祝いの帰りの事を言っているのかな。

いきなり口調が変わった……あの時の事を言ってる?

「まぁ、基本的には女の人には緩く話すようにしてんだけどね。その方がウケがいいし」

「……黒い」

「やだな。だから俺は小悪魔とか言われてんでしょうが」

爽やかに言う敬ちゃんを思わず凝視した。

「知ってたの」

「面と向かって言われてたし。商店街のおばちゃんたちは侮れないから。俺も意識してる時と意識してない時があるけど」

天然は天然なのねえ……。

「でも、まぁ……あれだ」

なんだ。

「昔から、彩菜のまったりした雰囲気は好きだよ」

……これは、あれかしら。

敬ちゃんなりの告白なのかしら。

だから、ノリが軽すぎて解らないんですってば。

「だけど、俺も最近気づいた」

「何を?」

「彩菜って、単に言葉にして言わないだけで、実は冷静だよな」

「そうでもないよ。そそっかしいし」

「うん。それも知ってる」

敬ちゃんは小さく笑って、繋いだ手を繋いだままコートのポケットに入れた。

歩く距離が近くなって、何故か感慨深げに見下ろしている。

「都心の方に買い物行こうか」

「うん」

「もう恥ずかしくない?」

「うん。だって、商店街ぬけるし」

「本当に彩菜の日常は商店街で完結してんだな」

「うん。とても実感した。頑張る」

「頑張らなくてもいいんだけどなぁ」

「花の命は短いのよ。敬ちゃん」

努力しないと、すぐ枯れちゃうんだから。

何もしなくて、花は綺麗に咲かないのよ。

「花かぁ。花ねえ……」

そんなことを言いながらも駅について、切符を買ってもらった。

「ありがとう」

「デートだしな。とりあえず、化粧品てどんなの欲しいの」

「基礎化粧品は……まだあるけど、後はほとんどもってないから……」

「グロスはやめろよ」

「なんで?」

「キスする時べとついて嫌だから」

「…………」

キス、するつもりなんだ。
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