小路に咲いた小さな花
だからどうして、そーゆー言葉を何気無い風にサラッと言うのかな。

わざとか天然か、どっちかで言っているんだろうけど、判別できれば対処しようがあるんだけど。

いや。

出来ない。

どっちにしても、そんな言葉に対応する高等スキルはないわよ。

どーせ、言われ慣れてませんから。

言われたことなんてありませんから!

「ちなみにね、彩菜」

「うん」

「こんな時には冷静にならないで、慌ててくれた方が可愛い。と言うか真っ赤だけどね」

今のはわざとか!

睨んだらニコニコされた。

「まぁ。そんなとこがいいんだけどさ」

解らないけど。

「人間、素直がなによりじゃない?」

「敬ちゃんがそれを言う?」

「自分にないものだから惹かれるでしょ?」

……やっぱり、よく解らないけど。

無言で電車に乗り込むと、空いていたから並んで座席に座った。

ゴトンゴトン電車に揺られながら、また何となく手を繋ぐ。

昔はよく繋いだ手。

今よりも小さくて、今よりも柔らかかった手のひらは、いつの間にかゴツゴツと大きくて男の人の手になっていた。

……手を繋がなくなったのは、いつくらいからだったろう。

いつだったか……

そう。あれは敬ちゃんに、初めて彼女が出来た頃だ。

商店街で彼女と仲良く手を繋いで歩いていた敬ちゃん。

いつも繋いでいた手が、自分のものじゃないと気づいたあの日。

嫌で嫌でたまらなくて、拗ねて、それ以来、手を差しのべられても繋ぐことはなくなった。

思えばとても幼い反応。

「敬ちゃん」

「うん?」

「私は、素直じゃないよ」

「うん。知ってる」

小さく笑いながら言う敬ちゃんは、どこか知っている敬ちゃんではなくて。

「彩菜は頑張り屋さんで、我慢するから、いつも突然泣き出すんだ」

ん?

「かくれんぼしてても俺を見つけられなくて泣くから、簡単なところに隠れたら……それはそれで怒るんだ彩菜は」

「……随分、昔のことだね」

「うん。何となく思い出した。変わらないなぁと思って」

「え。さすがに今はそれくらいじゃ泣かないよ」

「泣かないかも知れないけど、一緒だろ」

どこが?

「好きだって言ったら、誠意がないって怒ったし」

「だって……」

「……だからって、接し方変えてみるとドン引きするし」

「あ。うん。少しは慣れた……」

「え。マジ?」

驚いたような顔が覗きこんでくるから少し笑った。

「どれでも敬ちゃんは敬ちゃんだと思って」

「まぁ……劇的に変わる訳じゃないから」

どこか遠い目をしながら、敬ちゃんは溜め息をつく。

「だから、彩菜にも変わってほしくないんだけどな」

「変わる?」

「化粧なんてしたら、綺麗になっちゃうじゃん」

「…………」

それはいけないこと?

不思議に思って首を傾げると、敬ちゃんはどこか不貞腐れたように私を見る。

見るから、見つめ返す。

黙って見つめあっていたら、急に小さく笑われた。

「……今はまだ、本当のことは言えないけど、諦めないでよ」

「え……?」

「俺は、ちゃんと彩菜が好きだから。諦めないでくれると嬉しい」

「……う、うん」

な、なんだろう。

何だか、何かが、どこかが違う。

違うから、ドキドキして。

違うから、恥ずかしくて。

思わず視線を外したら、目の前の女子高生くらいの子と目が合った。

目が合って、お互いに顔を赤らめた。

回りから見たら、ちゃんと付き合っている男女に見えるのかしら。

見えていたら……嬉しい。

嬉しくて、恥ずかしい……けど。
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